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労働条件の不利益変更 〜一律賃金カット・高齢者の賃金凍結制度の導入〜

労働条件の不利益変更とは、賃金の減額、退職金計算式の削減的変更、労働時間を長くする(法定労働時間は8時間ですが、例えば、所定労働時間が7時間30分であったところを8時間にすること。)逆に労働時間を短縮する代わりにこれに応じて賃金を削減するなど労働条件を引き下げることをいいます。この場合、その方法は就業規則の変更で行なわれるのが一般的です。

就業規則による労働条件の不利益変更は、原則として労働者の同意が必要です。

これはそれまでの既得権があるからです。但し、同意がなくても合理的理由があれば認められています。(最高裁昭和43年12月25日)
この合理的理由の判断が難しい問題なのですが、他の判例(最高裁昭和58年11月25日)では、変更就業規則のによって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事業に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきであるとしています。要するに、労働者だけが不利益を被るのではなく、会社側にもそれ相応の理由及び負担等(業務上の必要性、代償措置、同業他社との比較等)が必要ですといったところでしょうか。

一律賃金カット

現在の日本経済において、企業がこれまでと同じように毎年昇給することが困難となりつつあります。さらに、企業存続のために昇給どころか賃金の減額さえ検討しなければならない企業もあるようです。万が一このような事態となった場合にもすぐ対応できるよう、その条件のひとつをクリアしておくため、就業規則において、会社の現状を鑑み、賃金減額もありうる旨を記載しておくことをお勧めします。賃金減額もその根拠がなければ実行できません。

もちろん、この文言を就業規則に記載しておけばいつでも賃金減額ができるわけではありません。
労働者全員の同意又は合理的理由が必要です。しかしながら全労働者が5〜6名ならともかく、数10名以上の規模の企業で全員の同意は困難ではないでしょうか。従って合理的理由が必要となります。

さて、この合理的理由ですが、もちろん一律の賃金カットを実行するまでに労働者に対する会社の現状説明、経費削減措置の実行、業務の合理化、遊休資産の処分、同業他社の状況分析、希望退職者の募集など様々な策を講じておく必要があります。さもないと合理的とは認められません。
労働者だけ賃金カットして社長はそのままであったというのは論外です。
その他、賃金の減額は、懲戒処分時又は職能資格の引き下げ時などにも考えられますが、これにも根拠が必要ですので就業規則への記載は欠かせません。

高齢者の賃金凍結制度の導入

労働条件の不利益変更問題でよく出てくるのが高齢者の賃金凍結制度の導入です。
終身雇用制度、年功序列制度が崩壊した現在、これまでと同じように高齢者の賃金を昇給できない状況となり、例えば50〜55歳あたりでそれ以後の賃金を凍結するというものです。

これについての判例は大変多いのですが、一貫した結論は出ていません。不利益の内容、同業他社との比較に於いて合理性ありとしたもの(青森地裁平成5年3月30日)、また逆に賃金は労働条件の中でも大変重要な要素であるから、高い必要性に基づくものに限られる(最高裁昭和63年2月16日)。としたものなど様々で、結局個々の事例を判断するしかないようです。ただ、有効か無効かを判断されるにあたり、就業規則を変更して行う場合、手続面で適法に行われているか、すなわち、適法に選出された労働者代表の意見書とともに就業規則が労働基準監督署に届けられており、労働者に周知されているかは判断基準のひとつです。この届出は、会社が行う場合労働者の同意は必要ありません。従ってこのような届並びに周知は必ず実行しておくべきです。
また、労働者に対し事前に1人でも多くの同意を取り付けるまたは労働組合がある場合には同じく事前に十分な説明並びに協力が得られるような対応が必要となります。
万が一訴訟となった場合、これらが訴訟結果を決定する要因のひとつとなります。

就業規則 | 労働条件の不利益変更(その2)