過重労働による健康障害の防止、労働条件適正化および長時間労働抑制などの目的のため、何の前触れもなく、労働基準監督署の監督官は調査にやって来ます。
会社側からは、調査を拒否できないのかとのご質問を受けることがありますが、残念ながらできません。法令上、労働基準監督署の監督官には、強制的に会社に立ち入り調査(臨検)をする強い権限が与えられているからです。更に法違反が悪質な場合、送検することができる権限もあります。一般的に、経営者にとって「強い権限を持っている」という概念では税務署があげられますが、その税務署と同様に労働基準監督署も強い権限を持っています。
この労働基準監督署の調査を軽く考えてはダメです。その対応次第では、会社存続の危機となる場合もあります。事実京都管内だけでも毎年書類送検(会社、代表者または両者を検察に書類送検)事例があります。
調査内容は、労働基準法などに関する違反の有無です。京都においても7割以上もの会社で法違反が指摘され、是正勧告が出されています。その中でも多い違反は、労働時間、割増賃金、安全基準などですが、どちらにしても調査に入られてからでは打つ手が限られます。
日頃から、これら是正勧告を受けないように、対策を講じる必要があります。
また最近は、景気悪化のためか、退職した元社員の申告により、労働基準監督署の調査が増加しています。こういった場合にも対応できるよう日頃から、対策を講じる必要があります。
当事務所は、労働基準監督署調査の立会い、是正勧告の対応および改善策まで、会社の立場でお手伝いさせていただきます。
監督署の調査が増加している背景
元社員のうつ病による自殺と長時間労働に因果関係が認められ、会社が遺族に多額の金銭を賠償した電通事件などを契機に、会社の社員に対する健康配慮義務違反を理由とする損害賠償支払を命じる判決が多発しました。これらは長時間労働や未払賃金(残業代不払)を原因としていることから、労働法令遵守を掌る労働基準監督署が長時間労働またはサービス残業の取締りを強化しました。
また、近年の景気悪化のためか、会社を辞めた社員が過去の残業代未払などを労働基準監督署に申告するケース、あるいは現社員が労働基準監督署に内部告発するケースが急増しています。労働基準監督署としても社員あるいはその家族などからの申告・内部告発などがあった場合にはすみやかに対応しているようです。
特に最近では、「うちの息子は○○に勤めているが、毎日朝早く仕事に出て行き、夜遅くまで帰ってこない」などという家族からの通報が増加しているようです。
こういった背景により、労働基準監督署の調査が増加しています。
労働基準監督署の調査は4 種類です。
定期監督 | 労働災害発生状況、遵法状況などの分析結果から、年度ごとに、重点業種、重点項目を決定し、計画にしたがって行います。 |
申告監督 | 社員、その家族または退職者から、残業代未払、解雇、セクハラ・パワハラなどに関して労働基準監督署に告発あったときに、その内容を調査するために行います。 |
災害時監督 | 大きな労働災害が発生した場合に、その災害の実態を確認するために行う調査をいいます。 |
再監督 | 過去に是正勧告を行った会社にふたたび訪れて、是正箇所を確認する。または指定期日までに是正報告書が提出されない場合や事業所の対応が悪質である場合などに再度行なわれる調査です。 |
是正勧告
時間外労働に関する労使協定を締結および届出していないにも関わらず、労働者に時間外労働を行わせていること |
労働者に対し、2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払っていないこと(平成○年○月分賃金から再度正確な割増賃金を計算し、遡及して支払うこと) |
常時50人以上の労働者を使用する事業場であるのに、産業医および衛生管理者を選任していないこと |
労働者に対し、定期健康診断が実施されていないこと |
労働基準監督署の調査があり、よく見かける是正勧告を求められる内容は上記の通りです。このような指導を受けた場合、会社は大変な労力を必要とします。このような是正指導を受けないよう、普段から対策を講じておく必要があります。決して人ごとではありません。